保育士の処遇改善手当ってどうなった?補助金の使い道や自治体の助成金まとめ
保育士の待遇を改善して、より多くの保育士の確保・離職防止するため、日本政府から各保育施設に支給されている膨大な補助金。国を挙げて行われている保育士の処遇改善ですが、現場の保育士からは「全く良くなっていない!」という声も多い…。
今回は、保育士の処遇改善に関する日本政府の方針や、どういた事に補助金が使用されているのかを調べると共に、私たち保育士はこれからどうすべきなのか?を考えていきます。
記事の目次
- 国を挙げての処遇改善で保育士の確保を目指す
- 潜在保育士を減らしてベテランを保育現場に
- 保育士の月給は平均よりも10万円以上低い
- 4年前に比べて給料やボーナスはアップした?
- 処遇改善手当が給料に反映されない本当の理由
- 処遇改善手当に残業代や研修費が含まれていた
- 補助金の不正利用を防いで処遇改善を推進する取り組み
- 千代田区では保育士の賃金台帳の提出を求めている
- 世田谷区では補助金を支給に関する規定を改定
- 足立区では不正受給者の補助金の返還や減額も
- 保育士の処遇改善に力を入れて取り組んでいる自治体
- 千葉県は保育士の処遇改善に力を入れている
- 横浜市と福岡市はプラスαの助成金を新設
- 沖縄県では保育士の正規雇用化を支援
- 保育士の処遇改善はまだまだこれから!
国を挙げての処遇改善で保育士の確保を目指す
2013年から開始された保育士の処遇改善。4年間で約7%、月額にすると21,000円程度の給与増額が目標としています。
その中には「2017年度より保育士・介護士の技能・経験に着目した更なる処遇改善」も含まれており、技能が高く勤続年数が長いベテラン保育士の給与を月額2%(約6,000円)増額するとのことで、今後、更なる処遇改善が期待されています。
潜在保育士を減らしてベテランを保育現場に
保育士不足の深刻化も理由ですが、こうした処遇改善が追加で行われる背景には、資格を持っているベテランが潜在保育士になることを食い止めようとする動きも見られます。
ベテランの保育士ほど「賃金が希望と合わない」という理由で仕事を辞めており、減っていく保育士に反比例して待機児童は増える一方。子供を預けられない母親は社会復帰ができず、それが日本の労働力不足にも大きなダメージを与えています。
こうした悪循環を一転すべく、処遇改善で保育士の給与を上げたり、保育現場から離れた潜在保育士を再雇用したりと、ベテラン保育士の人材の確保も国の狙いとなっています。
保育士の月給は平均よりも10万円以上低い
「賃金が仕事の割に合わない」という意見が多い保育士の仕事ですが、実際の給料は他の職種と比べてどれくらい低いのか見ていきましょう。
賃金構造基本統計調査によれば、保育士の平均月給が約21万9000円(公務員を除く)で、全産業の平均月給は33万3000円とのデータがあります。その差は月11万円以上、年収にして132万円以上も低いということが分かります。
国を挙げた保育士処遇改善が行われているにも関わらず、依然、保育士の給与は産業全体の平均に届いていないのも事実。
4年前に比べて給料やボーナスはアップした?
全産業の平均月給よりも10万円以上も低い保育士ですが、処遇改善が行われて給料が上がったという意見も多いようです。
ある保育士転職サイトが行ったアンケートによれば、4年前に比べて月給は2万円ほど増え、ボーナスは約3倍になったとの回答がありました。これは、2013年から始まった処遇改善の成果とも考えられます。
平均月給 | ||
---|---|---|
2013年度 | 2015年度 | |
A社月給 | 206,300円 | 220,000円 |
B社月給 | 185,000円 | 213,000円 |
C社月給 | 183,000円 | 220,000円 |
D社月給 | 173,000円 | 230,000円 |
E社月給 | 210,000円 | 203,000円 |
F社月給 | 199,700円 | 207,310円 |
G社月給 | 208,125円 | 210,000円 |
H社月給 | 183,000円 | 201,000円 |
I社月給 | 185,000円 | 192,500円 |
J社月給 | 185,000円 | 201,692円 |
平均月給 | 191,813円 | 209,850円 |
初年度賞与 | ||
---|---|---|
2013年度 | 2015年度 | |
A社賞与 | 1ヶ月分 | 1.7ヶ月分 |
B社賞与 | なし | 1.7ヶ月分 |
C社賞与 | なし | 1.7ヶ月分 |
D社賞与 | 1ヶ月分 | 1.5ヶ月分 |
E社賞与 | 2ヶ月分 | 2ヶ月分 |
F社賞与 | 1ヶ月分 | 3ヶ月分 |
G社賞与 | なし | 2ヶ月分 |
H社賞与 | 1ヶ月分 | 1ヶ月分 |
I社賞与 | なし | 2.3ヶ月分 |
J社賞与 | 1ヶ月分 | 2ヶ月分 |
平均賞与 | 0.6ヶ月分 | 1.9ヶ月分 |
※関東を中心に保育園を運営する法人10社に就業した保育士の2013年・2015年平均月収と初年度賞与を比較
しかし、こうした処遇改善の成功事例がある一方で、「以前と全く変わらない!」と現場の保育士からの不満の声が多いのも事実です。ホイクジョブにもいくつかの意見が寄せられました。
そもそも保育士処遇改善手当など支給されていない(長野県・26歳女性)
時金が50,000円支給されたが、他の施設では100,000円も支給されたみたい。この差は何?(東京都・28歳女性)
ボーナスに+αで補助金が支給されたが、今まで支払われていた残業代が全てなしになった(埼玉県・24歳女性)
もちろん、保育士の処遇改善をしっかりと実施している職場も多く存在しますが、国内での浸透率はまだまだ低いということが分かります…。
処遇改善手当が給料に反映されない本当の理由
保育士の低い賃金を改善するために、国や自治体から支給されている補助金ですが、何故、こんなにも不満の声が多く寄せられるのでしょうか?
その原因は、補助金の配布方法にあります。処遇改善のために支給された補助金は、保育士に直接渡されるのではなく、保育園の経営者にまとめて支給されています。
本来の目的通り保育士の給与に反映する保育園もありますが、なかには新たな利益増大のため園の設備投資に充てたり、この後のためと内部保留金として溜め込む場合が多いと言われています。
酷い場合には、身内役員へのボーナスとして膨大な補助金を使っていたという家族経営の保育園もあると聞きます。
処遇改善手当に残業代や研修費が含まれていた
また、処遇改善手当がきちんと保育士に支給されても、それに残業代や研修費などが含まれていたというケースもあります。
そのため、残業代がもらえなかったり研修費が自腹になったりと、結局は手元にほとんど残らないということになります…。こんな調子では、処遇改善に対する不満の声は無くなりそうにありませんね。
補助金の不正利用を防いで処遇改善を推進する取り組み
こうした補助金の不正利用を防ぐため、東京都内の自治体では補助金の使い道を調査する動きが活発になっています。
千代田区では保育士の賃金台帳の提出を求めている
千代田区では、独自に月額2万円の給与上乗せ補助金を支給していますが、施設経営者が前年度の事業報告書を提出する際に、保育士の賃金台帳の提出を求め、補助金が保育士の給与に反映されているかを確認しています。
世田谷区では補助金を支給に関する規定を改定
世田谷区では、開設して2年目以降の施設が補助金を受け取る際に「前年度の経常収入に対して人件費が50%以上である事」とする規定を2015年度に追加しました。
これにより、人員が確保できていない質の低い園や、保育士の賃金が低い場合は、自治体からの補助金が受け取れなくなっています。
足立区では不正受給者の補助金の返還や減額も
足立区では、保育士の給与引き上げのための補助金が適正に使用されているかを調査。改善が見られない施設には、補助金の返還や減額が施行されるようになっています。
保育士の処遇改善に力を入れて取り組んでいる自治体
補助金を保育士の処遇改善のため、正しく使われるよう規制する動きは徐々に増えています。では次に、保育士が働きやすいように、各自治体が独自に取り組んでいる制度をいくつかご紹介します。
千葉県は保育士の処遇改善に力を入れている
千葉県では子育て世代の移住者が増え続けており、それに伴う待機児童の数も急激に増加しています。この対策として、2016年度から県内では「保育士等宿舎借り上げ支援」や「保育士養成修学資金貸付制度」が導入されています。
保育士等宿舎借り上げ支援事業(千葉市)
保育士等宿舎借り上げ支援事業とは、認可・認定を受けた保育施設で働く保育士の住居を、雇用事業主が借り上げて、月額82,000円を上限に家賃を補助する制度です。
補助の内訳は、国が50%、市と保育施設が25%ずつとなっています。家賃補助は、雇用開始日より5年間適応され、保育士は自己負担なく入居する事ができます。家賃補助のような制度は千葉市以外でも東京都内や横浜市でも導入されています。
保育士養成修学資金貸付制度(船橋市)
船橋市では、指定保育士養成施設に在学している学生で、卒業後すぐに市内で働く意思がある方に限り、毎月3万円の修学資金が借りられる、保育士養成修学資金貸付制度が導入されています。
卒業後に船橋市の保育施設で正規職員として就労しなかった場合や、指定する勤務期間に満たないまま退職した場合には返金義務が発生しますが、本気で保育士を目指す学生にとっては嬉しい制度といえます。
横浜市と福岡市はプラスαの助成金を新設
国の補助金のみではなく、独自に考案した助成金を支給する市や自治体も増えています。
キャリアの長い保育士に給与手当を支給(横浜市)
横浜市では、国による処遇改善等加算の補助金以外にも、勤続年数に応じて給与手当が増額する職員処遇改善費という独自制度が導入されています。これにより、勤続年数が長いほど支給される金額も増えるため、保育士の定着に繋がっています。
勤続年数に応じて給料がアップする(福岡市)
福岡市では、保育士の勤続年数によって月額900円~5,300円までを支給する初任給調整処置費と、月額1,000円~12,000円までを支給する勤務手当が導入されています。雇用された初年度から適応になるので、新卒の方にも嬉しい制度ですね。
沖縄県では保育士の正規雇用化を支援
沖縄県では、非正規雇用の保育士を正規雇用化して離職者を減らし、保育士の職場定着を推進する制度を導入しています。
県内の認可保育施設が対象で、非正規から正規雇用になった場合は月額60,000円が補助金として事業者に支給されます。
保育士の処遇改善はまだまだこれから!
国による保育士の処遇改善はまだ始まったばかりなので、職場によって給与に差が出てしまうことは、ある意味仕方のないことかもしれません。
ただ、そんな中でもちゃんと処遇改善手当を支給している保育園や、補助金に付加価値を設けている地方自治体も存在します。
高待遇の職場に勤め、安定した収入を得ることは、保育士として長く働けることに繋がります。せっかく勉強して国家資格を取得したわけですから、それに見合った給料を希望することは当然の権利。
ですので、就職・転職の際はきちんと情報収集を行い、処遇改善に真面目に取り組んでいる保育園や自治体を選ぶことも賢い方法と言えるでしょう。
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